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一般講演 P2-028

降水量の異なるスギ・ヒノキ林土壌における水溶性物質の存在様式

稲垣善之, 鳥居厚志, 篠宮佳樹

森林土壌における硝酸態窒素の生成速度は、樹木にとって利用可能な窒素資源量を示すが、生成された硝酸態窒素は土壌中で移動しやすいために生態系外へ流亡する危険性がある。四国地域では瀬戸内側と太平洋側で年降水量が大きく異なり、多雨地域の太平洋側では土壌中の硝酸態窒素が流亡する危険性が高い。本研究では、降水量の異なるスギ・ヒノキの人工林を対象に土壌中の水溶性物質の存在量と実験室培養による溶存物質の変化を明らかにした。降水量1300−1900 mmである瀬戸内海側の4地域、降水量が2600 −4000 mmである太平洋側の4地域からそれぞれスギ林とヒノキ林を合計16林分選定した。それぞれの林分において2006年6月に深さ5cmまでの土壌を100mL円筒で採取した。採取時の土壌試料について体積含水率、pHおよび水溶性物質濃度(NO3、SO4、Cl、NH4、Na、K、Mg、Ca、Mn、Al、Fe、Si)を測定した。また、土壌試料を25℃で30日間培養し、水溶性物質の生成速度を求めた。その結果、表層土壌の体積含水率はスギ林でヒノキ林よりも高い傾向がみられたが、降水量による差はなかった。採取時の硝酸態窒素濃度は、スギ林でヒノキ林よりも高く、瀬戸内側で太平洋側よりも高い傾向がみられた。実験室培養によって求めた硝酸態窒素とマンガンの生成速度は瀬戸内側で太平洋側よりも高い傾向がみられた。その他の溶存成分については樹種や降水量による明らかな差はみられなかった。以上の結果、養分流亡の危険性が高い多雨地域の太平洋側では土壌の硝酸態窒素の現存量と生成速度が小さく、生態系から窒素が流亡しにくい性質があると考えられた。また、マンガンと硝酸態窒素の生成速度には高い相関がみられ、マンガンの存在様式が硝酸態窒素の生成にとって重要であることが示唆された。

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