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一般講演 P2-031

熱帯林生態系における樹木実生根の土壌低リン環境に対する適応:形態と酵素活性

*藤木泰斗(京大・農),北山兼弘(京大・生態研)

土壌風化が進んでいる熱帯林生態系では,植物が比較的簡単に利用できるリン(有効態リン)が少ないので,一次生産や物質循環はリンによって制限されているといわれている.しかし,リンが欠乏した熱帯林生態系でも地上部に巨大な森林が形成されている.その背景には,低リン環境に対する樹木の適応があると考えられる.本研究では,樹木のリン吸収効率を高める適応機構を明らかにするため,根の形態と有機物からリン酸を回収するための酸性リン酸分解酵素 (APase)の活性に注目した。低リン環境下で優占する樹種は,根の表面積が広い,またはAPase活性が高いと考え,リンの少ない生態系と多い生態系に生育する樹種で比較した.

研究地はマレーシア,ボルネオ島キナバル山中腹の成立年代の異なる2つの生態系で,母岩はそれぞれ堆積岩で同じである.成立年代が古い生態系(PHQ)の有効態の土壌無機リン現存量は,新しい生態系(Bukit Ular)のそれに比べて半分以下であることが知られている.1haのプロットでの相対胸高断面積(RBA)上位樹種を,PHQから8樹種,Bukit Ularから5樹種選んだ.それらの樹種の実生(平均樹高30.6cm)から,根を切れないように採取して,一定のpHでAPase活性を測定した。 さらに、その根をスキャナで画像化してコンピュータで根長を測定した.根の表面積の指標には根長を乾重で除したSpecific Root Length(SRL)を用いた.

優占種のSRLを種のRBA/合計RBA比で重みづけした結果,SRLはPHQでより高かった.また,APase活性とRBAの間には PHQで有意な正の相関があったのに対し,Bukit Ularでは有意な負の相関があった.以上のことより,低リン環境に生育する樹木の根は表面積が広い,あるいはAPase活性が高いという適応機構があると考えられる.

日本生態学会