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一般講演 P2-035
近年、窒素降下量の増大により森林生態系の窒素循環様式が変化し、系外への窒素流出量の増加が指摘され、森林生態系の窒素循環の制御機構に関心が集まっている。植物による窒素循環の制御については森林の伐採試験で明らかにされてきたが、伐採後の森林の成立過程における窒素循環の回復に関する知見は少ない。本研究では集水域ごとに林齢の異なるスギ人工林において、林齢を伐採後の経過年数として伐採から窒素循環が回復する過程を検証した。
調査は奈良県南部の護摩壇山試験地で、スギの林齢が5、16、31、42、89年生の5集水域で行った。生態系への窒素流入量は林外雨と31、42、89年生集水域の林内雨から求めた。系外への流出量は各集水域の流量と渓流水質から算出した。またスギのリター量と肥大成長量から窒素吸収量を、土壌窒素無機化量とイオン交換樹脂を用いた窒素流出入量から土壌の可給態窒素量を求めた。
窒素流入量は林齢によらず8-10kgN/ha/yrであった。流出量は16年生以降の集水域は3-5kgN/ha/yrと大きな違いはなかったが、5年生集水域で17-25kgN/ha/yrと他より多かった。伐採により増加した窒素流出は、植栽後16年までに植生の窒素吸収の回復によって伐採前の値に戻ったと考えられる。スギの窒素吸収量が林齢順に26、61、82、66、46kgN/ha/yrであったのに対し、土壌の可給態窒素量は17、50、20、19、29kgN/ha/yrであった。16年生以降窒素流出量は変化しなかったが、植生の窒素吸収量と土壌の可給態窒素量の比が1.5、1.2、4.1、3.5、1.6と30-40年生をピークに低下し、高齢林化によって窒素の需給バランスが崩れる可能性が示唆された。