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一般講演 P2-036
森林土壌での炭素動態を把握する際に安定炭素同位体(d13C値)が広く用いられている。特に植生変化(C3植生⇔C4植生)を経験した場所では、土壌有機炭素(SOC)の起源植生が示すd13C値が大きく異なる為、その供給時期・回転速度に関する情報が得られる。しかし、同時に供給源のd13C値が大きく変化する事により、SOCのd13C値が示唆する反応履歴を把握する事が困難となる。そこで本研究では、土地利用履歴の異なる2つの森林土壌において、d13C値と安定窒素同位体(d15N値)を併用する事で、植生変化の影響を除きSOC動態を詳細に解明する事を目的とした。
調査は京大フィールド研和歌山研究林内に隣接して存在する天然生モミ・ツガ林と53年生スギ人工林で行った。スギ(C3植物)人工林では、人工林形成以前にモミ・ツガ林を伐採し、ススキ(C4植物)草地として維持されていた。両サイトにおいて、土壌断面(深さ1m x 幅1m; n=3)から土壌を採取し、分析に用いた。
両サイトにおいて、炭素・窒素濃度は、深度が増すに伴い低下傾向を示した。d13C値では、全深度においてスギ林が常に高い値を示した。深さに伴う傾向は、天然林では一貫して増加傾向を示したが、スギ林では3段階の変化(増加、低下、増加)を示し、ススキの影響が明瞭に見られた。一方、d15N値は両サイトに違いは見られず、土壌上層では増加、下層では低下傾向を示した。d15N値の変化から、土壌中での有機物動態に強い影響を与える要因はほぼ同じであり、上層での分解・下層での移動集積が強く影響していると考えられた。
以上の事から、d13C値・d15N値の併用により、植生変化の影響を除外して土壌中での有機物動態を把握する事が可能である事、土壌上層での分解・下層での移動集積の影響が強い事が示唆された。