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一般講演 P2-058
化石燃料の消費や農地への人工肥料の使用増大にともない、大気から地上へ降下する窒素量が増加している。Galloway et al. (2004) によれば、1990年代初頭のアジア地域の年間窒素降下量は多くても1000mg/m2程度であったが、2050年には5000mg/m2以上に達する所も現れると予測されている。窒素は植物の成長に大きく影響する無機栄養であり、窒素降下量の増加は植物の一次生産力に影響する。また土壌の富栄養化が、種多様性の減少をもたらす可能性も指摘されている。
モンゴル草原は東アジア北部に広がる乾燥草原であり、五蓄(ヒツジ・ヤギ・ウシ・ウマ・ラクダ)を中心とする遊牧が行われている。遊牧は草原の一次生産力に依存した生産様式であり、地球環境変化の影響を受けやすいと考えられる。Galloway et al. (2004) の予測では、この地域の2050年の年間窒素降下量は、1990年代初頭と比べ500mg/m2以上増加する場合があると見積もられている。水が植物の成長の主な制限要因であると考えられる乾燥地域でも、年間500〜1000mg/m2程度の窒素降下量増加で、植物の生産量が2倍以上に増加するという報告がある。このことは、窒素降下量増加がモンゴル草原の一次生産力を変化させ、その結果遊牧活動にも影響を与える可能性を示している。
そこで本研究は、モンゴル草原において人工的な窒素散布実験を行い、近年地球規模で進行する窒素降下量の増加が、モンゴル草原の一次生産力および植生にどう影響するのかを明らかにする。さらにその変化が、当地域の主要産業である遊牧にどのような影響を与える可能性があるのか検討する。
本実験は2006年から3年間の予定でスタートした。今回は、実験の実施状況と、モンゴル草原で行った予備実験の結果を報告する。