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一般講演 P2-068
植物の成長パターン(フェノロジー)は、食害や撹乱の影響を受けるはずである。Kubo and Iwasa(1997)は撹乱を考慮し、地上部がシーズン全般にわたって各時刻に一定の確率で撹乱を受ける場合について、最適フェノロジーを解析している。しかし実際の撹乱は、食害昆虫の大発生のようにある時期に集中して生じることが少なくない。そこで本研究では、シーズン中のある特定の時刻に一定の確率で撹乱が生じる状況で、植物の地上部(栄養器官)と地下部(貯蔵器官)の成長パターンがどのように進化するかを理論的に解析した。
本研究では一年生の植物を仮定し、その植物は成長期間の終わりにおける栄養器官のサイズを最大にするように、(1) 栄養器官で生産された光合成産物の栄養器官と貯蔵器官への配分比xおよび 1-x(0≦x≦1)、(2) 貯蔵器官から栄養器官への貯蔵物質の転流速度k(0≦k≦kmax)を進化させると考えた。この動的最適化の問題を、ポントリャーギンの最大値原理を用いて解析した。
本解析によると、光合成速度が栄養器官サイズの増大に伴って単調に増加する場合には、(1)ある時刻までは栄養器官のみを成長させ、その時刻以降から撹乱の時刻までは貯蔵器官のみを成長させ、その後には貯蔵器官から栄養器官へ貯蔵物質を最大速度で転流させるか、(2)シーズン全般を通して栄養器官のみを成長させるかの2パターンが最適解となる。そして、成長パターンが(1)となるのは、撹乱の起こる確率または撹乱の際のダメージが大きい時, 貯蔵器官から栄養器官への最大転流速度が高い時であることが明らかになった。また、成長パターンが(1)の場合最終時刻における栄養器官のサイズの期待値は撹乱の起こる確率および撹乱の際のダメージ,及び 貯蔵器官から栄養器官への最大転流速度の増大に伴い増加することがわかった。