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一般講演 P2-072

ボルネオミツバチ( Apis koschevnikovi)の系統地理

*田中洋之 (京大・霊長研), 須賀丈 (長野県環境保全研), Roubik, D.W. (STRI), Meleng, P., Chong, L. (Sarawak Forestry Corporation)

ボルネオミツバチ (Apis koschevnikovi) は,樹洞営巣をおこなうミツバチであり,湿潤な熱帯雨林環境への生息地選好性を示す.本種が分布するマレー半島,スマトラ,ボルネオ及びジャワ西部は,更新世における湿潤な熱帯雨林のレフュジアの一つ「Malesia」にほぼ一致している.こうしたことから,送粉者としても熱帯林とかかわるボルネオミツバチの遺伝構造は,東南アジア熱帯雨林の進化を考える上で,重要な知見をもたらすと考えられる.本研究は,ボルネオ島における本種の地理的遺伝構造と,マレー半島の標本とボルネオ島集団との系統関係を明らかにすることを目的とした.ボルネオ島およびタイで採集された標本133個体のmtDNACO1遺伝子1041bpの塩基配列を決定したところ,62種類のCO1ハプロタイプが見つかった.分子系統分析の結果,これらのハプロタイプは4つのクラスターに分かれた.最初に分岐するクラスター (A)には,ボルネオ島北部由来のハプロタイプが属し,次にタイ産ハプロタイプが分岐した(B).最後に分かれるクラスター(C)と(D)は,それぞれ塩基置換頻度の低い近縁な多数のハプロタイプで構成され,前者にはボルネオ島の中央から東部にわたる広い地域で見いだされるハプロタイプが,後者には西部でみとめられるハプロタイプが含まれた.地域特有のハプロタイプが見いだされる傾向があったが,クラスター(A)と(C),(C)と(D),または(A),(C)および(D)に属するタイプが見つかる地域もあった.以上の知見ならびに系統地理的分析結果に基づいてボルネオミツバチの遺伝構造について述べる.

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