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一般講演 P2-073

ヒゲナガケンミジンコの個体群遺伝構造と移動分散

牧野渡(東北大・生命科学)

淡水産動物プランクトンの個体群遺伝構造に関する研究は、世代時間が短く主に単為生殖で増殖する枝角類(ミジンコ類)や輪虫類を対象とした研究が主流であり、カイアシ類などの完全に両性生殖に依存した分類群を扱った研究は驚くほど少ない。しかしカイアシ類は湖沼の動物プランクトンとして量的に卓越し、その生物量が動物プランクトン群集生物量の50%以上となる例も多々観察される。ゆえに、淡水産動物プランクトンの遺伝構造を包括的に理解し、生態系保全などの側面から応用するためには、もう一方の優占動物群である枝角類や輪虫類とは異なる生活史を示すカイアシ類での知見を蓄積してゆく必要がある。この点を鑑み、発表者は現在、日本列島に広く分布するカイアシ類であるヒゲナガケンミジンコ類に着目し、その個体群遺伝構造を把握するためにミトコンドリアDNAの COI領域を解析している。本ポスターでは、日本各地で採集したヤマヒゲナガケンミジンコ(Acanthodiaptomus pacificus)およびヤマトヒゲナガケンミジンコ(Eodiaptomus japonicus)での結果を紹介する。いずれの種類も両性生殖を行ない、また移動分散ステージと認識されている休眠卵も産生するのだが、個体群遺伝構造には著しい種間差が認められた。すなわちA. pacificusでは広汎な3つの地理的クラスターに分別され、それぞれが隠蔽種である可能性が示唆された。一方E. japonicusでは、全国各地から出現し数的に卓越するハプロタイプが存在するなど、明瞭なクラスター構造は認められなかった。ただし両種のハビタットも若干違っており、A. pacificusは高層湿原の池塘や高山湖沼に、E. japonicusは平地のため池に多く分布した。以上の結果をもとに、移動分散様式の種間差について考察する。

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