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一般講演 P2-077
海峡は、地表性甲虫にとって分布拡大の際の大きな障壁の一つになっている。海峡という障壁の働きや強さは、海流や海峡形成に関わる地史的イベントの影響を受けていると考えられ、生物地理学の重要な要素のひとつである。離島と本土に共通の種が分布する場合がしばしば見うけられるが、これらの種は両者が陸続きであった時期に分布域を拡大した、あるいは海峡という障壁を越えて移住した可能性が考えられる。
ヒラタシデムシSilpha perforata venatoriaは、北海道固有亜種で離島を含む全域に分布する飛翔能力をもたない地表性甲虫である。本研究では、このヒラタシデムシを材料として系統地理学的手法によって、海峡が障壁として機能しているのかを検討した。採集地は、北海道の西岸に位置し、海峡の幅や水深・形成史がそれぞれ異なる5つの離島(礼文島・利尻島・天売島・焼尻島・奥尻島)を含む、19地点を選んだ。採集した計301個体のミトコンドリアDNA ND2遺伝子の部分配列853塩基対を決定し、各集団内および集団間の遺伝構造について解析した。
その結果、礼文島集団は地理的に離れた集団とのみハプロタイプを共有し近隣集団とは遺伝的に離れていること、利尻島・天売島・焼尻島集団はTajima’s D、Fu’s FSの値が負であることからボトルネックを経験していること、奥尻島集団は対岸の集団と遺伝的な違いが有意ではなく本土と最近の遺伝的交流があることなどが示唆された。これは、島の集団と本土の集団との間の遺伝構造は、海峡の形成時期や本土からの距離などから単純に説明できるものではないことを示している。これらのことから、地表性甲虫の分布拡大に関する海峡の障壁について議論する。