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一般講演 P2-079

サクラマスの遺伝構造解析ー移動・分散に雌雄差はあるのかー

*北西滋(北大・院・地球環境),山本俊昭(日本獣医畜産大学),東正剛(北大・院・地球環境)

個体の移動・分散は、個体群構造や個体群動態に影響を与える主要な要因の1つと考えられている。サケ科魚類は、母川回帰性を有していることから、個体の移動・分散は、母川とは異なる河川に回帰する迷入によってもたらされる。標識放流や遺伝マーカーを用いた研究から、種や地域毎に迷入率に違いがあることが報告されているが、雌雄差があるという報告はあまりなされていない。サクラマスOncorhynchus masouは、一部の雄が河川残留型となって留まることや、稚魚の移動に雌雄差があるという報告があることなどから、移動・分散に雌雄差が存在する可能性がある。そこで本研究では、サクラマスを研究対象とし、個体の移動・分散に雌雄差があるかどうかを明らかにすることを目的とした。

北海道中西部に位置する厚田川個体群を対象とし、2003年から2006年にかけて、降海型231個体(雄107個体、雌124個体)を採集した。解析には、マイクロサテライトDNA7遺伝子座を用い、Assignment index、FST、FISを用いて、移動・分散に雌雄差があるかどうかを求めた。また、移動に雌雄差が存在する場合、遺伝子交流の程度や交流のある個体群間の距離が雌雄で異なることが考えられるため、地理的距離と遺伝距離との関係も調査した。

解析の結果、Assignment indexにおいて雌雄間に有意な違いが認められ、雄分散であることが示唆された。また、地理的距離と遺伝距離との関係を求めた結果、降海型雌においてのみ有意な相関関係が認められ、雄の方がより遠い距離へ移動していることが示唆された。これらの結果から、サクラマスの移動・分散には雌雄差が存在し、雄の方がより高い迷入率を有し、個体群間の移動・分散に寄与していることが示唆された。

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