| 要旨トップ | ESJ54 一般講演一覧 | | 日本生態学会全国大会 ESJ54 講演要旨 |
一般講演 P2-109
宮崎県綾町大森岳周辺の照葉樹林は、日本でも最大級の面積をもつ(約2千ha)、世界的に貴重な森林生態系である。しかし、一部は過去に人工林化され、面積が減少している。そのため、残存している自然林の保護とともに、人工林から自然林への復元を目指すプロジェクトが発足しており、自然林の復元のためには、人工林から自然林への遷移メカニズムに関する知見の蓄積が重要である。
そこで、本研究では、大森岳照葉樹林域の人工林から伐採後の初期遷移を経て自然林に至る過程で重要な樹種の特性を明らかにすることを目的とした。85年生ヒノキ人工林、約80年生ヒノキ人工林皆伐後10年目の若齢再生林、極相林での植生調査を行い、それらの林分に優占的に出現する数種の樹木の種特性の比較を行った。
その結果、若齢再生林では、先駆性落葉広葉樹4種、常緑広葉樹10種が出現したが、上位の優占樹種は、シロダモ、イヌガシ、ユズリハ、シキミの常緑樹4種であった。これら常緑樹の若齢再生林における平均樹高成長速度(cm/year)は、ヒノキ人工林に比べて大きく増加し、ユズリハでは5倍、その他3種では2〜3倍になった。また、極相林において、シロダモとユズリハは、林床にしか分布が無いのに対し、イヌガシとシキミは樹高10m以上になり、亜高木層を形成していた。さらに、葉の平均寿命を推定したところ、シロダモとユズリハに比べ、イヌガシとシキミの方が葉の寿命が長いという結果となり、より耐陰性が強いことが示唆された。
以上のことから、初期には樹高成長速度の可塑性をもつ先駆的常緑広葉樹が若齢再生林を形成し、その後の遷移過程では、耐陰性の違いによって、サイズ分布パターンを変化させ、異なる生残パターンを示すことが推察された。自然林への復元の過程では、時に応じて異なる種特性を発現させることで、遷移が進行すると考えられる。