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一般講演 P2-111

サロベツ湿原に侵入するチマキザサの形態

*藤村善安, 冨士田裕子 (北大植物園)

北海道北部日本海側のサロベツ湿原では、ササ群落の高層湿原への侵入が報告されているが、その原因は明らかでない。またササの種名に混乱が見られている。本研究では高層湿原付近に生育するササの形態的特徴を明らかにすることで、(1)どの種名を用いることが妥当かを提示し、(2)ササ群落拡大の要因について若干の検討を加えた。

形態計測は、ササ群落と高層湿原の境界付近で最近30年間にササ群落の拡大が見られた2地点(拡大ササ前線)と拡大が見られなかった1地点(固定ササ前線)、およびササ群落の中心部2地点の合計5地点からそれぞれ10稈を採取して行った。

結果以下のことが判明した。(1)ササの種名に関して:稈の分枝は50稈中22稈でみられ、下部あるいは下部から上部にかけての位置で分枝していた。節の膨らみはわずかであった。全ての葉が表裏ともに無毛であった。葉縁、鞘、節の毛は有毛から無毛で、個体内でも一定せず、不安定な形質と考えられた。これらよりサロベツ湿原への侵入・分布拡大が問題視されているササ属植物は、現時点ではチマキザサと呼ぶことが妥当であると考えられた。(2)ササ群落拡大に関して:ササ群落の中心地で見られるササは、境界付近で見られるササに比較して、葉面積/葉1枚、高さおよび稈長、土地面積あたりのササ乾重、葉面積(LAI)が大きかった。これは先行研究に一致する。固定ササ前線と拡大ササ前線のササを比較すると、固定ササ前線では、個体(シュート)重、葉面積/葉1枚、枝の長さ、個体(シュート)あたりの葉数および葉面積が大きかった。これは固定ササ前線でササ群落が拡大しないのは、地上部の生長抑制が原因ではない事を示している。またこのことから地上部が大きくなるための要因と、群落を拡大させるための要因は異なると考えられた。

日本生態学会