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一般講演 P2-113

イヌブナの堅果及び実生の生残過程

*石塚航,梶幹男,澤田晴雄(東大・演習林)

太平洋側山地帯に優占するイヌブナ(Fagus japonica)は、萌芽に依存した更新が知られている。しかし、ブナ(Fagus crenata)と同様にマスティングをしており、実生による更新の可能性もあるため、その動態の把握は重要である。そこで本研究では、イヌブナ堅果の結実から発生実生の定着過程における消長調査を東京大学秩父演習林のイヌブナ林で行った。調査は、イヌブナの豊作年であった2005年に、格子状に配置した25個のシードトラップによる落下種子量調査を行い、また翌年に、同地に発芽した実生を個体識別してその消長を詳細に調査した。

堅果の落下数は920.1個/m2になり、そのうち健全堅果は68.0%、しいなは20.3%を占めており、充実した堅果が多かった。次に、実生の発生数は79.4個/m2(落下堅果数の8.6%)、そのうち冬芽を形成した個体は1.5個/m2(発芽実生数の1.9%)であった。実生の発生は、4月初旬から6月中旬まで長期間観察された。当年生実生の死亡割合は、動物(シカ・ネズミ)害による死亡が80.0%で最も高く、以下、病(立枯れ病菌)害が14.2%、乾燥害が5.2%、虫害が0.5%であった。実生の死亡は、4〜5月期はシカ害によるものが87%を占めたが、6月期は57%が病害によるもので、主たる死亡要因は時期により異なっていた。

また健全堅果密度は、発生した全ての実生の密度との間に有意な正の相関がみられたが、当年生残実生密度との間には相関がなく、発生期間直後の生残実生密度と当年生残実生密度との間には有意な正の相関があったことから、健全堅果の数よりも4〜6月期の実生の生残が実生定着過程において重要であると示唆された。また母樹からの距離については、梅雨後の生残実生密度ならびに当年生残実生密度との間に有意な正の相関があった。

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