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一般講演 P2-114

生活史段階ごとの樹木の分布パターンと環境条件との関係

*畑尚子(東大・農・森圏管理),正木隆(森林総研),齊藤陽子,井出雄二(東大・農・森圏管理)

序論:多くの樹木は、立地環境に対して偏った分布をするとされているが、このようなパターンは樹木の生活史のどこで生じるのであろうか。本研究では、「樹木分布の偏りは実生から成木へ生活史段階が進むにつれて拡大する」という作業仮説をたて、実生(H ≦ 30cm、ただし当年生は除く)、稚樹(H ≧ 30cm, GBH ≦ 15cm)、成木(GBH ≧ 15cm)の各生活史段階における個体の分布と、立地条件との関係を樹種別に解析して検証した。

方法:調査は茨城県の小川群落保護林に設置された6haのプロットで行った。プロットを10mグリッドに分割し、成木の位置、樹種、胸高周囲を、またグリッドの交点に設けられたコドラートで、実生、稚樹の位置、樹種、高さを記録し、立地条件として土壌型、土壌水分、リター量、傾斜角、光条件を測定した。

結果:調査地内の木本種52種のうち十分な個体数の得られた27種について解析を行った。土壌型および立地条件(測定値から数段階にカテゴライズ)について、各カテゴリーでの個体数の観察値と、ランダム分布を仮定した場合の期待値とのずれの有意差を検定した結果、ほとんどの樹種が成木、稚樹、実生の各段階で、立地条件に対する非ランダムな分布を示した。生活史段階が進むにつれランダム分布からのずれが大きくなるという予測は、約半数の種に当てはまり、これらの樹種の分布パターンはこの仮説である程度説明できるものと考えられた。一方、予想と逆に生活史初期にもっとも分布が立地の影響を受ける種や、途中の稚樹段階でもっとも立地の影響が最大となる種もみられた。

考察:本研究の結果は、立地環境の空間変動が樹木の分布を形成する過程に深くかかわっていることを示すものである。群集における樹木の共存メカニズムの一部は本研究の仮説で説明できる可能性があると考える。

日本生態学会