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一般講演 P2-117

湿原における植物群落への木道設置の影響(土壌の理化学性の検討を含めて)

小林祥子(宇大・農),広木幹也(国環研),谷本丈夫(宇大・農)

木道設置が湿原植生にどのような影響をおよぼすのかを明らかにすることを目的とし,尾瀬の湿原内において,木道の間,木道の脇,木道より6.0m離れた場所(以下,木道離れ)において群落構造とミズバショウまたはヌマガヤの草丈とそれらの確認地点から木道までの距離の計測を行った.さらに土壌を採取し,灰分率の計測を行った.

群落構造は木道周辺と木道離れにおいて異なっていた.特にミズゴケの被度は木道周辺では低かった.また,尾瀬ヶ原では木道間と木道脇ともにヌマガヤが優占,尾瀬沼では木道脇にミズバショウが,木道間にヌマガヤが優占し,木道間と木道脇の間でも異なる群落が認められた. 草丈は,木道からの距離が近いほど高くなった.さらに,木道間と木道脇の草丈を比較すると,ヌマガヤは木道間と木道脇でほぼ同じくらいの高さであったが,ミズバショウは木道間よりも木道脇で高くなった.木道周辺では土壌がひび割れた凸地や,木道に沿うように流水路が認められた.土壌の灰分率は,木道周辺に比べて,木道離れにおいて,著しく低い値であった.木道間と木道脇を比較すると,木道間においてやや高い値を示した.

今回の調査によって,木道周辺と木道から離れた場所の植物群落と種組成が異なっていた.また,木道から離れた場所と木道周辺の両方に出現する種であっても,その草丈は木道周辺で高かった.それらの場所では,木道から離れた場所に比べて灰分率が高かった.これらのことから,木道を設置することは,湿原周辺より流れ込む土砂や表層水が木道によってせき止められるなど微地形を変化させ,鉱物質の土砂が堆積し,湿原とは少し異なる群落が作られたり,草丈が高くなったりすると推測される.従って,木道設置はハイカーの保護や植生保護というプラス面と同時に植物群落を変化させてしまうものであり,今後その点を考慮した湿原生態系の保全を行う必要がある.

日本生態学会