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一般講演 P2-137
1970年に始まった減反政策や過疎化における労働力の流出などにより,各地で放棄水田が増加している.これまで放棄水田の植生については多くの報告がなされているが,その遷移過程は自然立地条件により異なり,それぞれの遷移過程を把握するためには,さらに多くの事例が必要であると考える.
本研究では,広島県北部の冷温帯域における放棄水田の植生を把握し,その遷移過程の一端を明らかにすることを目的とした.
調査地とした広島県北広島町八幡地区は広島県の北西部に位置し,標高は約760-800mmである.年平均気温は10℃前後,年間降水量は2,400-2,700mmであり,広島県で最も積雪量の多い地域である.
調査は2005年5月から2006年10月にかけて,放棄年数の異なる水田で植生調査を行なった.方形区は2×2m2もしくは1×4m2 とし,全出現種の被度,群度,草丈を測定した.
調査を行った47スタンドの調査資料をTWINSPANを用いて解析した結果,各スタンドは,放棄年数と土壌水分の違いにより分類された.これらのスタンドをDCAを用いて序列づけた結果,1軸については,放棄年数の短いスタンドから長いスタンドへと序列づけられた.2軸については,土壌が乾性なスタンドから湿性なスタンドへと序列づけられた.放棄年数の短い乾性なスタンド群では,ヨモギ,ススキなどが,放棄年数の短い湿性なスタンド群では,ヌマハリイ,セリなどが特徴的に出現した.また,放棄年数の長い湿性なスタンド群では,ミゾソバ,マアザミなどが特徴的に出現した.
これらの結果から,本調査地においても植生の遷移は土壌水分の乾湿により遷移系列が分かれることが明らかになった.しかしながら,セイタカアワダチソウ,タケ・ササ類,つる性植物が優占しないことから,その遷移過程は暖温帯平野部の放棄水田とは異なると考えられた.