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一般講演 P2-146

ヤクスギの樹高決定に台風が及ぼす影響

*高嶋敦史(琉球大・農), 久米篤(富山大・理), 吉田茂二郎, 村上拓彦, 溝上展也(九州大・農)

屋久島のヤクスギ林に設置された5箇所の試験地で,6種類の優占樹種のアロメトリーを調査し,林分の垂直構造を解明した。屋久島は勢力の強い台風の通り道に位置し,風速40mを超える強風もめずらしくない。そのような環境下で,ヤクスギは梢端を失いながら生育している個体が多い。そこで,これらの強風がヤクスギのアロメトリーに及ぼす影響を調べるべく,直径と樹高のデータに以下の2パターンのアロメトリー式を当てはめた。(1)1本の拡張相対成長式,(2)サイズの小さい個体に相対成長式,サイズの大きい個体に定数をあてはめた,不連続な式。すると,後者のほうがアロメトリーを適切に表す式となり,ヤクスギのアロメトリーは小径木と大径木の間が不連続で,大径木は梢端を失い樹高が頭打ちになっている傾向を確認できた。また,試験地間の比較では,露出の高い地形ほどヤクスギの最大樹高は低くなった。よってヤクスギの樹高の頭打ちは,強風によるものであることも裏付けられた。

6種の優占樹種の最大樹高は,すべての試験地で同じ傾向を示し,スギ>ヤマグルマ>シキミ≒サカキ>ハイノキ≒サクラツツジ,となっていた。スギは梢端を失っても,十分な光を得ることができる最上層に樹冠を維持していた。また,試験地間でスギの樹高に差があっても,この順番に変化はなかった。標高が似通った4つの試験地では出現種数にもあまり差がなく,似たような垂直構造が似たような種構成をもたらしていると推察された。

成熟したヤクスギ林内では,単木単位のギャップではスギの更新がほとんど起きないことが知られている。しかしながら,破壊的な強風環境下でもスギは梢端を失いながら長期間生育することが可能であった。このようなスギの樹種特性や共存種との兼ね合いが,老齢なヤクスギ林の形成に大きく寄与しているものと考えられた。

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