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一般講演 P2-149
岩手県の北上山地は主に中生代や古生代の古い地層からなる.火山は存在せず,地形は山並みがそろった高原状である.また,日本海側に比べ冬季の積雪量は少なく,冬季の低温乾燥とやませによる夏季の低温などの影響を受ける.しかし,三陸海岸に沿って海洋性の気候であるため,暖温帯生植物が生育する.さらに北海道と共通する植物も分布し,特殊な地区といえる.
他方,従来から牧畜などの土地利用が行われている.自然植生は早池峰山など限られた地域にしか残存せず,北上山地の自然植生には不明な点が多い.
本研究では北上山地の自然植生を解明するため,十二神山東斜面(海抜400〜450m)に発達する夏緑広葉樹自然林に1haの方形区を設定した.この方形区を100個に細分した小方形区ごとに斜面方位,傾斜角度を測定し,DBHが2cm以上の幹の種名とDBH,DBHが4cm以上の幹の位置を記録し,樹冠投影図を作成した.
調査の結果,1haあたり65種,1738本の幹を確認した.優占種はBA(胸高断面積)ではブナ(24.1%),幹数ではハウチワカエデ(192本),アオダモ(192本)であった.BAの優占順位では高木種が上位を占め,幹数では亜高木種が上位を占めた.林分における高木種と亜高木種との生活様式の違いが示唆された.
平均種数,平均幹数,平均BAは南向き斜面,南西向き斜面で大きく,北向き斜面で小さかった.また,傾斜角度が大きいほど平均種数,平均幹数は大きくなった.斜面方位や傾斜角度によって出現する樹種や成長量に違いがあると考えられる.
以上から,十二神山の夏緑広葉樹自然林はブナ林と考えられるが,ブナの優占度は高くなく,多くの樹種から構成されていることがわかった,これは多様な立地それぞれに異なる樹種が生育しているためと考える.このことは太平洋側のブナ林の特徴として捉えられよう.