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一般講演 P2-151

タイ国カオヤイ国立公園におけるアジアゾウの果実食と種子散布:アジアゾウ散布植物はあるのか?

*北村俊平(立教大学・理), 湯本貴和(総合地球環境学研究所), Pilai Poonswad(マヒドン大学・理), Prawat Wohandee(タイ王立森林局)

アフリカ熱帯林に生息するマルミミゾウは200種を超える果実を利用し、またマルミミゾウに種子散布を依存する植物も知られている。一方、アジアゾウは生息環境の悪化から、個体数が激減しており、その種子散布者としての役割の解明は急務である。本研究ではタイ国カオヤイ国立公園に生息するアジアゾウの果実食と種子散布について報告する。1998〜2002年にかけて、月2回の頻度で定点調査地を訪れ(のべ57回)、発見した糞塊を精査し、中に含まれている種子を同定し、計数した。701糞塊から、のべ6科7種2504個の種子が見つかり、ほとんどの種子は物理的に破壊されていなかった。複数のセンサスで確認されたのはSandoricum koetjape(114糞塊から2365個の種子)、Garcinia cowa(12糞塊から40個)、Platymitra macrocarpa(8糞塊から48個)の3種に限られた。調査期間に結実していた259種の果実と比較した場合、アジアゾウが利用する果実の特徴として、1)黄色または茶色、2)果肉には甘い香りがある、3)大型の果実、4)硬い種子、5)落果として大量に存在する、の5点が挙げられた。発芽試験の結果、糞塊から回収したS. koetjapeの種子と結実木から採集した種子の発芽成功に差は認められなかった。アジアゾウが利用する果実の種数は少なく、多くは霊長類によって種子散布されることから、カオヤイではアジアゾウに種子散布を依存する植物は存在しないと考えられた。しかし、アジアゾウの広い行動圏、速い移動速度、長い腸内滞留時間などを考慮すると、同じ果実種を利用している霊長類には代替できない、超長距離散布に貢献している可能性が考えられた。

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