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一般講演 P2-155
ツキノワグマは、多くの種類の果実を採食し、発芽能力を有した多肉果の種子を糞と共に排出することから、種子散布者として機能していると考えられる。そこで、本研究では山梨県御坂山地および秋田県阿仁クマ牧場において、ツキノワグマの種子散布者としての役割を検討するために、(1)ツキノワグマはヤマザクラ果実をいつ採食するのか、(2)採食による種子の物理的破壊はあるのか、(3)採食による発芽能力への影響はあるのか、について明らかにした。
野外調査として、まずヤマザクラ果実の成熟過程(大きさ、外果皮色、結実数、糖度、発芽能力の変化)を、開花日を基準にして調査し、同時にツキノワグマの採食痕跡を基にヤマザクラ果実の採食時期を調査することで、ツキノワグマがどの状態のヤマザクラ果実を採食するのかを調査した。室内実験として、飼育個体を用いて、様々な成熟段階のヤマザクラ果実を給餌させ、糞の中から種子を回収することで採食による種子の物理的破壊の程度を調査した。さらに、それらの種子を対照区(人為的に果肉除去)と共に発芽実験に供試し、採食による発芽能力への影響を調査した。
その結果、ツキノワグマはヤマザクラ果実を開花後50日目以降に採食し、その時点のヤマザクラ果実は成熟し、糖度も高く発芽能力を有した種子を含んでいた。また、採食による種子の物理的破壊はほとんど確認されず、採食した種子と人為的に果肉除去した種子との間では、発芽率に有意な違いは認められなかった。
以上より、ツキノワグマは発芽能力を有した種子を含む成熟したヤマザクラ果実のみを採食し、さらに、採食による種子の物理的破壊や発芽率の低下は認められなかったことから、ツキノワグマはヤマザクラに対しては、質的な点で有効な種子散布者として機能していると考えられた。