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一般講演 P2-161
種子散布者としてのニホンザルの有効性を検証するため、飼育下の個体に既知数の果実を食べさせて、排泄されるまでに破壊される種子の割合を算出した。霊長類研究所の個別ゲージで飼育されているニホンザル5頭に5樹種の果実を与え、フンとして排泄される種子を数えた。食べられた果実数、果実あたり種子数、および排泄された種子数から、破壊された種子の割合(種子破壊率)を算出した。さらに排泄種子と人為的に果肉を取り去った種子について、充実種子の割合を比較した。
その結果、種子破壊率の樹種ごとの中央値は、ヒサカキ90.1%、ハマヒサカキ84.4%、シャシャンボ60.4%、シマサルナシ86.4%、およびアコウ86.3%であり、いずれの樹種も採食された種子の大部分は破壊された。種子破壊率には樹種間で有意差がなかったが(Freidman test、df=4、p=0.16)、サル個体間には有意な差がみられた(df=4、p=0.02)。また、各樹種の種子の堅さと破壊率の間には相関が認められなかった。排泄種子と対照区の充実種子率には差がなく(bootstrapによる信頼区間)、消化管内で物理的に丈夫な種子が選別されるわけではないことが示唆された。採食された種子は種間あるいは種内の種子特性のちがいとは無関係にランダムに破壊され、咀嚼がもっとも有力な破壊要因だと推察された。種子破壊率にはサル個体ごとの採食技術や飼育履歴のちがいが、種子の特性よりも強く影響すると考えられた。いずれにせよ消化管通過時の激しい種子破壊は、ニホンザルの種子散布者としての有効性を下げる要因となりうる。