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一般講演 P2-168

散布前の虫害がコナラ種子のタンニン含有率に及ぼす影響

*高橋明子(京大院・農),島田卓哉(森林総研・東北)

コナラ種子は被食防御物質タンニンを多量に含み、堅果類の生存過程には種子のタンニン含有率が大きな影響を持つことが知られている。また個々の種子のタンニン含有率における大きな変異が確認されており、その要因として光条件の違いが挙げられている(第53回生態学会発表済み)。

ハイイロチョッキリ・シギゾウムシ類はコナラ種子の主要な捕食者であり、コナラの更新過程に与える影響は非常に大きいと考えられる。植物は葉の被食に応じて葉内にタンニンを誘導することが知られており、種子への虫害もタンニン含有率に影響している可能性がある。本研究では散布前の虫害がコナラ種子のタンニン含有率に及ぼす影響を検討するために、1)個々の健全種子のタンニン含有率を説明する環境要因を用いて重回帰モデル式を作成し、2)モデル式より求めたタンニン含有率の推定値と虫害種子における実測値を比較した。

滋賀県志賀町の対象木(n=8)において、全ての繁殖シュート(n=338)における相対光量子束密度、葉の枚数・被食度、種子数を、また対象木の全種子(n=427)の落果日、生重、虫害の程度、タンニン含有率を記録・測定した。

その結果、虫害種子のタンニン含有率は重回帰モデル式による虫害前の推定タンニン含有率よりも有意に高く、その要因として1)タンニンの誘導が生じる、2)虫害による種子成熟の阻害により未成熟時の高いタンニン含有率が維持される、3)種子の内部でタンニン含有率の高い部位が食べ残された、という可能性が考えられた。種子の被食の程度が異なっても推定タンニン含有率と実測値の関係に変化が見られないことから、1)タンニンの誘導、もしくは2)未成熟時のタンニン含有率の維持のいずれかの要因による影響で、虫害種子におけるタンニン含有率が高くなっていることが示唆された。

日本生態学会