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一般講演 P2-171

低頻度出現樹種カツラの長距離種子散布

*住吉千夏子(広島大学総合科学部),*後藤晋(東京大学),*佐藤匠,*井鷺裕司(京都大学農学研究科)

種子散布は植物種の次世代の更新に関わる重要な過程である.とりわけ長距離種子散布は,稀にしか発生しないものの植物分布域の拡大や移動にとって極めて重要である.一般に,風散布型の種子は散布範囲が広いとされるが,天然個体群において1kmを超える長距離種子散布がどの程度の頻度で起こっているのかといった実態はほとんど明らかになっていない.本研究では,軽量で飛翔能力の高い風散布型種子を持つ高木種カツラ(Cercidiphyllum japonicum)が沢沿いに線状に分布することを利用して,マイクロサテライト遺伝子座5座を用いた母性解析によって,長距離種子散布の実態を明らかにすることを目的とした.東京大学北海道演習林内の岩魚沢保存林の沢沿いに全長約3kmの長大なプロットを設定し,プロット中央部から採取した当年生実生754個体を対象に,プロット内に分布する雌149個体を親候補とする母性解析を行った.母性解析の結果,親個体が特定できた実生の10%が1km以上散布されており,種子散布距離は最大で2km付近にまで及ぶことが明らかになった.さらに,散布方向を沢の流れに沿って北向きと南向きに分類した場合,北向きの種子散布が最大散布距離,散布種子数ともに南向きのものを上回っていた.特に,1km以上の長距離種子散布の頻度は,北向きでは13%,南向きでは4%と異なっていた.このような方向性のある種子散布は,風向風速計のデータから,種子散布時期には南風の頻度が高く,しかも風速が強いためと考えられた.

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