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一般講演 P2-179
分解を通して物質循環を駆動している土壌微生物群集の組成と機能は殆どわかっていない。高温多湿の熱帯では、微生物のエネルギー源(資源)である土壌有機物は低濃度に保たれている。また微細なコロイド鉱物が卓越し、資源の一部はこの鉱物表面との吸着・接着反応によって難分解化する。よって、気候そして地球化学的条件は、土壌の微気候や資源の量・質を制御することで、土壌微生物の群集組成を規定している可能性がある。この検証のため、ボルネオ島・キナバル山の降雨林にて、気候また資源の質・量が連続的に変化する標高傾度(700〜2700m)そして土壌深度(表層〜1m)傾度から試料を採取し、リン脂質脂肪酸(PLFA)を抽出し、微生物分類群特異的バイオマーカーの解析を行なった。土壌炭素、窒素量(C, N)は、高温による分解促進により、標高が下がるにつれ漸減し、また1つの森林内では、下層にゆくほど急激に減少した。この資源量の減少に伴い、菌類に比べ細菌類由来のPLFA濃度が有意に上がり、また細菌の中でもグラム陰性菌(Gm−)に比べ陽性菌(Gm+)由来のPLFA濃度も上がった。また資源の質の指標であるC:N比の減少に伴い、同様の群集組成のシフトが示された。これは、低標高また下層の資源に乏しく鉱物の卓越する環境では、真菌類よりも効率的に分裂や休眠をする細菌類、その中でも厚い細胞壁を持つGm+細菌がより適応的であると解釈できる。主成分分析では、標高よりも土壌鉱物の化学組成の違いが微生物群集組成の違いに影響していた。よって有機物の量・質また土壌鉱物の形態に応じて、これらの微生物群集にシフトが起こり、これが熱帯林生態系維持に関わっている可能性が示唆された。