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一般講演 P2-186
動物には,捕食を免れるための様々な防御形質が知られている。しかし,それらがどの捕食者に対して,どの程度有効に働いているのかを推定することは難しい。
我々は,イッシキマイマイというカタツムリが,カタツムリのみを食べるヘビ(セダカヘビ類)に対してのみ有効だと考えられる防御行動をおこなうことを発見し,それらの効果を実験によって確かめた。検出された防御行動は複数あり,噛みつかれる直前に落下するという「回避行動」,噛みつかれた後,尾部のみを捕食させることで絶命を免れる「自切行動」と殻形態を利用して逃れる「脱出行動」にわけられた。これらの防御行動が成功する頻度は,イッシキマイマイの成熟度に依存して変化した。またこれらの防御行動は,セダカヘビが生息しない小島に生息する,イッシキマイマイの別亜種(ヨナグニマイマイ)には見られなかった。
自切を起こした尾部は数ヶ月で元通りに再生したが,無傷な尾部とは容易に区別することができた。そこで尾部の再生率を野外個体群で調査した。その結果,ヨナグニマイマイでは尾部の再生が見られた個体の割合はわずか0-3%にすぎなかったが,イッシキマイマイではおよそ20%にものぼることが判明した。この結果は,イッシキマイマイの自切行動がヘビによる捕食に対する防御として実際に機能していることを示すと同時に,イッシキマイマイにかかっている捕食圧のうち,ヘビによる捕食圧が占める割合が非常に大きいことを示す。
以上の結果は,高い捕食圧のもとでの局所適応として,イッシキマイマイに対ヘビ専用の防御が進化していることを示唆する。本発表ではさらに,この捕食者―被食者間相互作用の強さが地理的に異なり,それが相互作用網の多様性と島面積との関係に影響を受けている可能性について議論する。