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一般講演 P2-191

アユの縄張りにおける形成と崩壊のすれ違い

*田中裕美,中桐斉之(兵庫県立大・環境人間),泰中啓一,吉村仁(静岡大・創造科学技術院)

アユは採餌縄張りを持つことで知られている。春になると小さな縄張りを形成し、岩に付着する藻類を食べる。そして縄張りに侵入した魚を攻撃する。アユの「友釣り」はこの習性を利用したものである。

アユの個体数が増えていくと、縄張りを持ったアユの数が増えていくが、縄張りの数には限界があり、ある一定の個体数密度になるとその縄張りは崩壊する。群れから個体数を減らしていくと、ある一定の個体数で縄張りが形成される。しかし、縄張り形成時と崩壊時のアユの個体数密度は異なっているように見える。そこで、私たちは個体数が増加するときと減少するときの、アユの縄張りの形成と崩壊のモデルを作り、縄張りの形成と崩壊のメカニズムを解析した。

本研究では、アユには縄張りを持つ「縄張りアユ」、縄張りを持つことができない「あぶれアユ」、「群れアユ」の3種類がいると定義する。そして3種類のアユが利用する餌場は異なり、縄張りアユはいい餌場である「はやせ」を、あぶれアユは悪い餌場である「ふち」を、群れアユはその両方をそれぞれ利用する。

個体数が少ないときは、アユはすべて縄張りアユとなったほうが適応度は高い。しかし、個体数が増え、あぶれアユによる妨害が増えていくと、縄張りアユの適応度が下がる。やがて群れアユの適応度より低くなる臨界値を超えるとすべてが群れアユとなる。

個体数密度が高いときには群れアユの適応度が高いが、群れアユの個体数が減っていくと、群れアユの適応度が下がり、縄張りアユのそれより低くなる。その臨界値を超えたところで縄張りアユとなる。

このとき、縄張り形成時と崩壊時では個体数密度に違いが出てくることが分かった。

日本生態学会