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一般講演 P2-194
イソウロウグモ類は造網性クモ類の網に侵入して餌をくすねる“盗み寄生者”であり,種間で盗み行動や形態が著しく多様化している.この形質の多様化は宿主適応の結果によりもたらされたものと考えられるがその証拠は得られていない. チリイソウロウグモ(以下、チリ)は地域によって異なる宿主を利用しており(本土-クサグモ; 屋久島以南-スズミグモ),宿主適応による形質分化の可能性を明らかにするのに適した材料である. 演者らは個体群比較によりクサグモ利用個体群がスズミグモ利用個体群に比べて相対脚長(体サイズに対する脚長)が短いことを明らかにした.本講演ではこの脚長変異が宿主の網を上手く歩くための形態的適応である可能性を検証するため,宿主間の網の複雑性の違いとチリ個体群間の宿主網上における歩行速度の違いを明らかにした.
宿主の網の複雑性の指標として糸密度を比較したところ,クサグモの網の糸密度はスズミグモのそれよりも高かった.次にチリの歩行速度を比較するため,糸密度の高い網と低い網を用意し,異なる個体群由来のチリを歩かせた.その結果,糸密度の低い網において両個体群間で歩行速度の違いはみられなかったが,糸密度の高い網ではクサ利用個体群がスズミ利用個体群よりも速く歩行できた.
チリは南方起源であることから宿主利用はスズミグモからクサグモへと変遷し,それに伴い脚長が短くなったと推測される.脚長が短い個体ほど複雑な網でより速く歩行できたことから,この脚長の短縮はクサグモの複雑な網を歩くための形態的な適応であると解釈された.この歩行速度の上昇はおそらく宿主網上での餌盗み成功を上昇させていると考えられる.この可能性を明らかにするため、チリと宿主の行動データをもとにした”餌盗みシミュレーション”も行なったので、その結果も併せて報告する.