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一般講演 P2-196
[目的]ニホンザルは、主要採食樹の分布について認識地図を持っていると考えられてきた。そして、同一樹種の中でも特定の樹木個体を繰り返し利用することがその傍証とみなされている(丸橋、1986;Nakagawa, 1990)。本研究では、主要採食樹の利用回数とその採食樹への移動速度、移動距離の関係を調べることを通じて、ニホンザルが認識地図を用いて採食樹を選択していることを明らかにする。[方法]屋久島西部海岸域に生息する野生ニホンザルの一群を対象に、オトナメス5個体を調査対象個体として選び、1日に1個体を追跡した。1分間以上続く同一品目の採食行動を主要採食バウト、ならびに1分間以上続く毛づくろいを含む休息行動を主要休息バウトと定義し、主要採食・休息バウトの最後の地点から次の主要採食バウトが見られた樹に到着するのに要した移動時間を算出した。さらに、GPSによって得た両地点の位置間の地図上での直線距離を求め、移動時間で割ることにより移動速度を算出した。[結果]サルが利用した採食樹への訪問回数が増えるにしたがって移動速度は速くなり、移動距離は長くなる傾向があった。しかし、10回以上の繰り返し利用が観察されたアコウ(Ficus superba)では、移動速度は4回目の訪問時をピークにその後は緩やかな減少傾向が見られた。また、樹種ごとに移動速度、移動距離を比較すると、種間で差があった。[考察]2回目以降の訪問時の移動速度が1回目よりも速くなること、及び、訪問回数が増えるにつれて、遠距離からの移動が増えることから、一度訪問した採食樹木個体の場所をサルは記憶し、この記憶に基づいて2回目以降は、より速く、より遠くから特定の採食樹木個体を目指して向かっていることが示唆された。樹木個体間で移動速度の違いが見られることから、採食樹としての栄養学的な価値の違いがこれらの差を引き起こしていると考えられる。