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一般講演 P2-205

ヤモリ類の社会行動にみられる視覚利用

池内 敢 (京大・理・動物)

社会行動(同種間のコミュニケーション)には、視覚、聴覚、嗅覚、触覚が用いられる。一般に、明るい環境で活動する動物は視覚の利用頻度が高く、逆に暗い環境で活動する動物は、視覚への依存が低下する。ヤモリ類の多くは夜行性であるが、近年、暗闇でも色を識別できることが明らかになり、夜行性であるにも関わらず、視覚の利用頻度が高いことが示唆されている。また、夜行性の祖先種から進化したとされる昼行性ヤモリ類も存在し、これらは昼間の活動に進化した結果、夜行性ヤモリ類よりも視覚への依存が高まったと推測される。そこで、夜行性および昼行性ヤモリ類が、視覚のみを利用してどの程度まで他個体を認識できるのかを明らかにするために、ヤモリ類の社会行動に着目し、鏡に映った自身の像(視覚のみの情報)に対する反応を調べた。実験は、夜行性ヤモリ類としてアントンジルネコヅメヤモリを、昼行性ヤモリ類として系統的にも近く同所的に分布するマダガスカルヒルヤモリを対象とした。両種の社会行動は、それぞれの活動時間帯に自然光下で赤外線付きビデオカメラを用いて撮影した。両種とも鏡から離れた距離では、顔を鏡像に向ける「顔向け」、舌を出して匂い物質を集める「舌出し」を行い、視覚と嗅覚を利用して鏡像の情報を集めていると思われた。また、鏡に近づくにつれ、「尾振り」「背中丸め」「首曲げ」等の威嚇行動が観察された。夜行性ヤモリでは鏡に接触後に威嚇行動をやめ、鏡表面を歩き回る個体が多かった。一方、昼行性ヤモリでは、鏡に接触した後も鏡像に対して威嚇行動を繰り返した。以上から、両種のヤモリとも、個体同士が接するまでは視覚情報だけで他個体の認識が可能であるが、他個体と接する距離では、夜行性ヤモリが視覚以外の情報を必要とする一方、昼行性ヤモリは、視覚だけの情報でも十分他個体の認知が可能である事が分かった。

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