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一般講演 P2-212

局所情報が生成する理想自由分布:ニューラルネットを用いた採餌行動

*堀部直人(東大・総文),嶋田正和(東大・総文)

Fretwell and Lucasが1970年理想自由分布(ideal free distribution)を発表して以来、多くの実証例が報告されている。理想自由分布とは、餌の分布・他個体の分布といったことに関する”理想的な知識”を持ち、コストをかけることなく瞬時に移動できるという”自由な移動”が可能ならば、動物は各個体が等適応度になるように分布するだろう、というものである。実際の生物は理想的な知識を持たず、自由な移動もできない。それにもかかわらず多くの実証例が報告されてきたことは、”理想的な知識”や”自由な移動”がなくても理想自由分布が生成可能であることを示唆している。我々は、採餌行動に見られるパターンが理想自由分布を生成するのではないかと考えた。そのパターンとは餌を見つけると、歩行速度を落とすことで餌の周囲にとどまり、餌が見つからなくなると、歩行速度を上げその場を離れるというものである。我々は認知行動のシミュレーションに適するとされるニューラルネットワークというシステムを用いて、採餌行動のパターンと理想自由分布の関係を調べた。具体的には、まず、ニューラルネットワークを用いて意志決定を行う個体を作成し、餌探索を行わせ、獲得した餌量に応じて進化的な選抜をかけることで効率のよい採餌パターンを示す個体(=ニューラルネットワーク)を作成した。その結果得られた個体は、実験観察で得られた採餌パターンに近い振る舞いを示した。次に、得られた個体を複製し、餌を配置した空間を自由に探索させ、一定時間たったあとでの個体の分布を観察した。その結果、各個体は局所情報を用いて意志決定をしているにもかかわらず、理想自由分布が生成することを確認することができた。

日本生態学会