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一般講演 P2-213
多くの動物において、採餌に関する意思決定に捕食者の存在が影響し、採餌中に捕食リスクを認識すると、餌は少ないがより安全な場所で採餌したり、警戒や逃避といった対捕食者行動をする事で採餌効率が低下する事が知られている。
網の中央に占座して採餌を行なう円網性クモでは、採餌に関する意思決定の多くが造網時に行われる。すなわち、造網はクモにとって採餌投資の大部分を構成する要素であって、その時々の外的内的要因に応じてクモは網の大きさや形態を変えて造網する。この事から、クモの造網行動に捕食者が影響する可能性が考えられ、実際にクモ食性のクモの匂いが存在すると面積と総糸長が小さな網が作られるという報告がある。さて、円網性クモは、その主要な捕食者であるハチや寄生性のハエの接近を、羽から出る空気の振動をキューとして認識する。このようなキューは、匂いキューとは異なり、捕食者が近くにいるときにしかクモに認識されず、これら捕食者の認知はほとんどの場合採餌活動中に生じると考えられる。造網性クモでは採餌に関する意思決定と実際の採餌活動が時間的に分離しており、飛翔性昆虫に捕食されるリスクの認知がその後の造網行動に影響するかどうかははっきりしない。
そこで、実験室内でサガオニグモ(Eriophora sagana)とギンメッキゴミグモ(Cyclosa argentoalba)を、440Hzで振動する音叉に曝し、その前後の網の総糸長、面積および横糸間隔の変化について(サガオニグモについては隠れ帯をつけた程度も)計測した。その結果両種とも、音叉に曝したグループではコントロールと比べて総糸長が有意に小さく、有意ではないものの、網の面積も同様の傾向を示した。このことから両種が飛翔性昆虫捕食者に対する反応として採餌投資を減少させる事が示唆された。一方、横糸間隔と隠れ帯では操作の影響は見られなかった。