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一般講演 P2-215
哺乳類の中には、糞を決まった場所にする種がある。この行動を通じて糞が堆積した場所を糞場という。糞場を作る種の一つにアナグマがある。これまで、ヨーロッパアナグマの研究から、糞場にはなわばりを誇示する機能があるという仮説を支持するデータが得られている。しかし、同亜種であるニホンアナグマの生息地環境や個体群密度はヨーロッパアナグマと異なり、糞場については糞場があること以外、ほとんど分かっていない。そこで、本研究では、ニホンアナグマの糞場の利用パターンを調査し、同様の仮説が支持されるか検討した。
福岡市西区の九州大学伊都キャンパス内の調査区(約24ha)を踏査し糞場を探した。糞場の位置を記録し、GISを用いて地理的な特徴を解析した結果、糞場は尾根に多いという特徴があった。21ヶ所の糞場と7ヶ所の巣穴に赤外線センサーカメラを設置し、写ったアナグマの性や傷などの特徴からのべ24個体のアナグマを識別した。また、アナグマを捕獲し、ラジオテレメトリー法により行動圏を調べた。追跡個体の行動圏に対する糞場への訪問頻度は、コアエリア内と周辺で有意な違いはなく、季節に有意な違いがあった。また、ほとんどの糞場で複数個体が撮影された。糞場に来ても糞をしないこともあり、排泄以外の行動も観察された。
糞場が尾根に多いのは、尾根のような特徴的な地形を通り道にしているからかもしれない。同じ糞場を複数個体が利用し、糞場で糞をしないこともあることから、糞場に来る目的は糞をするためだけではないようである。しかし、コアエリア内と周辺の糞場への訪問頻度に有意な違いがなかったため、糞場により行動圏の境界を誇示するような機能は支持されなかった。ニホンアナグマの糞場には、捕食者から仔の存在を隠す、繁殖状態を示すといった機能があるのかもしれない。