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一般講演 P2-226
アカネズミはオニグルミ種子の数少ない捕食者であるが、その種子は堅い果皮に覆われているため、採食には困難を伴う。これまでの研究で、本州のアカネズミにはオニグルミ種子を上手に採食できる個体とできない個体が存在していた。伊豆諸島にはアカネズミは生息しているが、オニグルミは自生していない島が多い。そこで、伊豆諸島産アカネズミの、オニグルミ種子に対する採餌行動や採食頻度の島嶼間比較を行った。
観察は、捕獲した日から毎日種子を1個ずつ与え、14日間連続して行った。まず、伊豆半島のクルミの自生していない調査区では、22頭中10頭(45%)が14日後には採食できるようになった。次に、伊豆諸島の大島では31頭中8頭(26%)が種子を採食できるようになり、新島では23頭中2頭(9%)、神津島では29頭中19頭(66%)が食べられるようになった。このように、島嶼間で種子に対する選好性に地域差が認められた。
一方、各地域の集団遺伝学的解析も行った。ミトコンドリアDNAのコントロール領域(D-loop)の約300塩基対を解読し、比較した結果、地域ごとにそれぞれ固有のハプロタイプが得られ、本州に比べ、島嶼部では遺伝的多様度が顕著に低い傾向があった。
島嶼間で異なるオニグルミ種子の選好性には、遺伝的多様性の顕著な低下、つまりボトルネックの効果を受けている可能性が考えられた。遺伝的多様性と行動的・文化的多様性の関連を調べる上で、伊豆諸島のアカネズミは好適な研究材料であると考えられる。