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一般講演 P2-229
多くの夜行性ガ類はコウモリによる捕食圧にさらされている.ガ類の聴覚器官はコウモリの発する反響定位音(超音波)を検出するために発達したと考えられており,耳を持つガ類はコウモリの超音波に対し飛翔・歩行の中止や螺旋飛翔などの捕食者回避行動を示す.
一方,アワノメイガOstrinia furnacalisでは超音波を利用した種内音響交信が知られている.オスは性フェロモンを放出するメスへ定位飛翔した後,メスの近傍で超音波を発して交接を試みる.この時オスの発音はメスの交尾拒否行動(逃避)を顕著に抑制する.このようなメスの反応から,オスの超音波は,配偶者認識に関与している可能性と,捕食者の音として認識されている可能性が考えられた.
そこで,本種のオス,コウモリ,高周波数サイン波の各音刺激をメスに与え,音に対するメスの認識能を調査した.その結果,無音,バックグラウンドノイズの音刺激では交尾におけるメスの逃避行動は抑制されなかったが、オス,コウモリ,サイン波に対してはどの超音波でもメスは逃避行動が抑制された.
また,メスはコウモリの発する超音波に反応してフェロモン腺の露出を中止することが知られているが,上記と同様にどの超音波に対してもメスは同じ行動・反応性を示した.
これらのことから,オスは交尾試行時に超音波を発してメスに捕食者回避行動を引き起こし,その結果としてメスの逃避を抑制することで交尾成功度を上げているものと思われた.