| 要旨トップ | ESJ54 一般講演一覧 | 日本生態学会全国大会 ESJ54 講演要旨


一般講演 P2-240

セミの鳴き音の音響解析

遠藤暢(京大・農・森林生態)

セミ(Hemiptera: Cicadidae)は、主にオスがメイティングの目的で発音するが、音を発する生物のなかでも特異的に、時空間的に音空間を占有する特色があると指摘されている(シェーファー 1977)。従って、ある種のセミのオスが鳴くという行為は、同種及び他種他個体のセミのつくり出す音空間の中に位置づけて考えることが必要だと考えられる。さらに近年、音響解析ソフトを用いることによって手近に周波数の分析ができることから、音空間の時空間の広がりに加えて周波数領域の広がりについても考察することが可能となった。複数の種を対象としたセミの鳴き音の周波数のパーティショニングの研究は、これまで特に熱帯地方で盛んに行われてきた(e.g. Sueur 2002)。しかし、国内で周波数を解析した研究例はわずかしかない。そこで本研究では、京都に生息している9種のセミ(ニイニイゼミ、クマゼミ、アブラゼミ、ハルゼミ、エゾハルゼミ、ヒグラシ、ミンミンゼミ、ツクツクボウシ、チッチゼミ)について、鳴き音を野外で録音し、音響解析ソフトを用いて波形・ソノグラム・スペクトログラムを導き、種間の鳴き音の違いを解析したところ、種間で差異が見られた。セミのオスはメスを誘うために鳴くという本来の目的から考えて、同じ鳴き方をする同種内で、音空間をめぐる干渉が起こっている可能性が推測されるが、セミの種内での鳴き音の干渉を扱った研究はこれまで行われていない。そこで本研究では、同種の鳴き音の干渉を避けるために、近くで鳴く個体間で鳴き声の周波数の重複を避けているか否かを調べるために、ニイニイゼミとツクツクボウシの2種について、同種他個体の鳴き音がある場合と無い場合で、鳴き音に違いがあるかどうかについても解析を行う。

日本生態学会