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一般講演 P2-244

オガサワラオオコウモリPteropus pselaphonの少数のオスのみがメスのコウモリダンゴを独占する

*杉田典正(立教大院・理),上田恵介(立教大・理)

オガサワラオオコウモリPteropus pselaphonは、植物食の大型のコウモリで、小笠原諸島に生息する唯一の固有哺乳類である。もっとも北に生息するオオコウモリ類のひとつである。ほとんどのオオコウモリ類は樹上に集団でねぐらを形成する。オガサワラオオコウモリは少なくとも20年間、冬季に父島のある決まった地域に集団ねぐらを形成してきた。父島の個体群のほとんどともいえる約100個体のオオコウモリが集団ねぐらを利用した。他の季節は、集団ねぐら域から分散する個体が増加し、オオコウモリは減少するか存在しなくなった。集団ねぐら内では、オス、メス、亜成獣の休息場所はそれぞれ異なり、3つのグループが形成された。集団ねぐらでこのオオコウモリは、コウモリダンゴという各個体が互いに団子状に密着して休息するという、他のオオコウモリ属では見られない行動をおこなった。この行動は、冬季の寒さに対しての保温の役割を持つことが示唆された。コウモリダンゴに参加する個体の性構成を調べることから、メスの集まり(コウモリダンゴ)に1頭のオスが混ざるハレム構造がみられ、コウモリダンゴは配偶システムにも関係していることがわかってきた。しかしこれまで個体識別が不十分であったため、同一オス個体がメスとの交尾を独占しているのかどうか不明であった。個体識別を施したオオコウモリをねぐら内で追跡し観察した。その結果、あるオスはメスグループの一部を他のオスの接近から防衛し、集団ねぐら形成期のほとんどにわたりハレムを形成した。このオスは繰り返し交尾を成功させたが、オスグループ内のオスは交尾をほとんど試みなかった。夜間や他の時期の配偶システムは不明だが、少なくとも集団ねぐらにおいてはコウモリダンゴを介したメス防衛型ハレム構造だろう。

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