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一般講演 P2-249

シロオビアゲハにおけるベイツ型擬態と性淘汰のコスト

畑野 俊貴(琉球大学農学研究科)

シロオビアゲハは日本では奄美諸島以南に分布するアゲハチョウ科の蝶である。オスは黒地で後翅に白い帯状の斑紋をもつ型のみであるが、メスの斑紋にはオスと同じ斑紋をもつ非擬態型と食草由来の毒をもつベニモンアゲハ(モデル)に似た擬態型の2型がある(後者はベイツ型擬態)。このメスの2型はメンデル遺伝し擬態型が優性である。擬態型は擬態の効果により捕食されにくくモデル存在下では自然淘汰上有利であると考えられるが、野外では全てが擬態型になることはない。本研究ではメスの2型維持を説明するとされる2つの仮説を検証した。擬態型は非擬態形よりも捕食されにくい。擬態型は翅の斑紋などの違いから、オスに交尾相手として認識されにくい(性淘汰のコスト)。

まず、モデルの定着状況の異なる喜界島(モデル未侵入)、竹富島(モデル最近まで未侵入)、沖縄島(モデル定着)、宮古島(モデル定着)から母蝶を採集し実験室内で産卵させ次世代が羽化するまで飼育した。そして、母蝶と次世代メスの擬態型率を比較した。もしも、擬態の効果があるならば、天敵による捕食圧を経験している母蝶の擬態型率の方が室内飼育のため捕食圧を経験していない次世代のそれよりも高いはずである。実際、沖縄島と宮古島では母蝶の擬態型率が次世代のそれより有意に高かった。次に、各島の母蝶から羽化してきた未交尾個体群を用いてオスに両型のメスを同時に提示する実験をおこない、どちらのメスを交尾相手として好むかを観察した。もしも、性淘汰のコストがあるのならば、非擬態型の方がオスに好まれやすいはずである。結果、サンプルサイズの小さかった竹富島を除き、オスは有意に非擬態型に偏ってアプローチ&コンタクトし、交尾していた。以上より、擬態型は捕食されにくいというベネフィットとオスに好まれにくいという性淘汰のコストがあり、これら2つの均衡によりメスの2型が維持されている可能性が示唆された。

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