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一般講演 P2-252
血縁個体の分布様式は、利他的性質の進化などを考える上でしばしば問題にされる。単独テリトリーを持つネズミ類の雌では、母親などの血縁雌がいた方が、近くにテリトリーを獲得しやすいという例が観察されてきた。一方で、血縁雌が隣接して生息することには、血縁雌間での資源を巡る競争や共倒れの危険性などの問題があることも指摘されてきた。これらの影響が大きい場合、血縁雌は離れて分布した方が良いかもしれない。しかしながら、このことは理論的には示唆されているものの、野外での観察や実験例は非常に少ない。血縁者が離れて分布した方が良いような場合は、均一な安定した環境よりも、比較的短い時間間隔でその質が変動するような環境において、また、定住性が高い種よりも、環境探索能力に秀でた分散性が高い種において起こりやすいと考えられる。アカネズミ類は、分散性が高いという特徴を持ち、近年では、メタ個体群レベルでの分散や資源の変動に対する応答をテストするのに良い材料として認識されており、このような現象について調べるのに好適な対象種といえる。
本発表では、巣立ち雌のテリトリー獲得過程における血縁雌、特に、母親による影響について報告する。野外で繁殖雌のテリトリー内にケージを設置し、その中で出産・育仔させ、その後の娘のテリトリー獲得について調べた。巣立ちした雌はしばらく母親のテリトリー内に留まるが、その後、母親が消失(分散/死亡)した場合には、そこでテリトリーを獲得できるケースが多かった。一方、母親が残った場合には、近くにテリトリーを獲得することはなかった。母親の除去実験でも同様の結果が得られた。また、同腹の姉妹も隣接してテリトリーを獲得する例は観察されなかった。適応度を指標にしたわけではないものの、本調査区では血縁雌は離れて分布した方が良いという状況が生じていることが示唆された。