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一般講演 P3-001

ヒトクチタケにおける食菌性昆虫群集の空間構造

*門脇浩明,西田隆義(京大農・昆虫)

空間的集中はパッチ状環境における生物の資源をめぐる競争的な共存機構として一般的に認められている。各種の消費者が独立にパッチに集中分布することで種間相互作用に対して種内相互作用が卓越し、確率論的に多種が共存できると考えられている。一般に自然生態系では、資源パッチが集合して大きなパッチを形成するなど、階層的なパッチ状構造をもっているが、各スケールでの種の集中に関わるプロセスとそれが多種共存の安定性に与える影響はあまり研究されていない。木材腐朽性硬質菌キノコ、ヒトクチタケにおける食菌性昆虫群集を用いて、パッチレベル・樹木レベル(キノコパッチの集合)・景観レベル(樹木パッチの集合)の3つのスケールでの空間的集中が共存安定性に与える影響をデータ操作によるシミュレーションで検討した。

2005年度5月中旬から7月中旬まで京都北山において計7回8本のアカマツから木材腐朽性硬質菌ヒトクチタケの子実体をランダムに8個ずつサンプリングし、実験室内で幼虫を飼育し各種幼虫個体数を記録、キノコサイズを測定した。得られたデータを用いて、キノコレベル・樹木レベル・景観レベルの集中度をそれぞれ固定した/しない場合の計8通りのランダマイゼーションを行いSevenster(1996)の共存安定性指数を計算・比較した。

スペシャリストではキノコレベルと樹木レベルの集中度がともに共存安定に重要で、この組合せの効果はそれぞれ単独で働く場合に予想されるよりも、高い共存安定性を実現した。一方、ジェネラリストでは、キノコ・樹木のうちどちらの空間的集中だけでも高い共存安定性を示した。観察された共存安定性に寄与する空間スケールの異質性は、スペシャリスト-ジェネラリスト間でコロナイゼーション過程(特にリクルート過程)の違いによるものと考えられた。また、本研究で採用した階層的部分サンプリングの方法論的な問題点についても議論する。

日本生態学会