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一般講演 P3-010
現在、中山間地域では休耕田が増加し続けている。増加し続ける休耕田をどのように解消、または維持管理していくかは、中山間地域の文化的景観維持、生物多様性保全などの観点から重要である。
我々は生物多様性に配慮した休耕田の維持管理の基礎的な知見を得るため、栃木県市貝町において水田生態系に代表的なトンボ目昆虫を環境指標生物として用い、その休耕田における分布に影響を与える要因について考察をおこなった。
調査の結果、均翅亜目8種、不均翅亜目24種の計32種が出現した。広範囲に出現したのはノシメトンボ、ナツアカネ、アキアカネといったアカトンボ属であった。シオカラトンボやシオヤトンボも広範囲に出現したが、隣接する樹林の張り出しによって暗い地点では見られなかった。オゼイトトンボやモートンイトトンボ、ハッチョウトンボは出現地点が少なく、開放水面が維持されている地点でのみ出現した。水路が維持されている地点ではヒガシカワトンボやヤマサナエ、コオニヤンマといった流水性種が出現し、ヒガシカワトンボは特に暗い環境、ヤマサナエは明るい環境に多く出現した。
これらの種の個体数データを用いて、出現種および、調査地点をTWINSPANによって分類した。その結果、出現種は明るく開放水面を有する地点に出現する種、明るい環境に出現する種、広域に分布する種、暗い環境に出現する種に分類され、地点は明るく水路から水田に水が流れ込んでいる地点、明るい地点、暗く水路が維持されている地点の3つに分類された。また、各分類結果と環境条件との対応付けを行った結果、開放水面の有無と樹冠の閉鎖に伴う光環境の変化がトンボ目昆虫の分布に影響を与えていることが分かった。トンボ目昆虫の生息を考慮した休耕田の管理において、この2点にまず注目する必要があることが示唆された。