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一般講演 P3-012
ヌルデの複葉にヌルデシロアブラムシによって形成される虫えい、ヌルデミミフシは、乾重の約70%もの高濃度で加水分解タンニンを含有し、古くから染料・薬剤等に用いるタンニン資源として活用されてきた。ヌルデミミフシの高濃度でのタンニン含有は、生物的に見ても特異であるにも関わらず、この特性を獲得するに至った生態的背景については不明である。本研究では、タンニンがヌルデシロアブラムシおよびその他の植食者の生存・発育に及ぼす影響を明らかにした。
ヌルデミミフシに人工的に穴を開け、その後のアブラムシ量の変化を推定する野外実験を行った。人工的に穴を開けた虫えいでは、アブラムシの捕食者であるヒラタアブの幼虫が観察され、アブラムシ量が穴を開けなかった虫えいの1/5に低下することが明らかになった。このことから、外部からの開穴はヌルデシロアブラムシの生存に致命的なダメージを与えることが示唆された。
ヌルデの葉を摂食するトサカフトメイガ・クロスジキンノメイガと、エリサンの幼虫に、異なるタンニン濃度(0〜70%)の人工飼料を与えて成長を比較した。クロスジキンノメイガとエリサンでは、餌に含まれるタンニン濃度が高くなるにしたがってその発育は低下した。タンニンを10〜40%含む餌を与えたトサカフトメイガの幼虫の餌消費量や成長は、タンニンを含まない餌を食べた幼虫よりも有意に高く、タンニンが摂食刺激物質であることが明らかになった。また、トサカフトメイガの幼虫も、60%以上のタンニンを含む餌をほとんど摂食せず、発育しなかったことから、摂食に関してタンニンに特殊化した植食者であっても、ヌルデミミフシを餌資源にできないことが明らかになった。
これらの結果から、ヌルデミミフシに含まれる高濃度のタンニンは、植食者による外部からの食入を防ぎ、結果的にヌルデシロアブラムシの天敵の侵入を防ぐ化学防御壁であることが示唆された。