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一般講演 P3-015
タンガニイカ湖の鱗食魚で見つかった形態的な左右差(左右性)は、他の多くの魚にも存在することが実証されつつある。鱗食魚や魚食魚では、自分とは逆の利きの被食者を多く捕食しているので、左右性は単なる形態的左右差ではなく、魚類間の捕食-被食関係と深く結びついていると考えられる。一方で、発表者によるエビ食魚の研究から、ヌマエビの左右性の存在が示唆された。そして、予備調査でエビ類の腹部が個体ごとに左か右にねじれていることが分かった。エビ類の左右への逃避行動は腹部の回転と尾扇の左右非対称な動きによることが知られているので、腹部のねじれの角度を計測することで、逃避行動に関係する形質の左右性が検討できる。
そこで本研究では、タンガニイカ湖のエビ食魚が餌とするエビ(L.latipes)と同科の日本産ヌマエビ2種を用いて、エビ類の形態上の左右性とその遺伝性を検証した。尾扇の中心が右に向かってねじれている個体を左型、左にねじれている個体を右型と定義した。2種の形態計測によって、腹部のねじれにおける左右非対称性が明らかになった。ねじれの大きさはわずかであるが、明らかな左か右かのねじれが個体ごとに見られた。腹部のねじれの頻度分布は二山型を描き、腹部がまっすぐの個体は見られないので、この非対称性は「対称性のゆらぎ(FA)」ではなく、反対称性(antisymmetry)である。
この非対称性の遺伝性を明らかにするために、左型同士、左型(雄)×右型(雌)、右型(雄)×左型(雌)、および右型同士の4種類の交配を行い、そこで得られた稚エビ(F1)での対立形質の分離比を求めた。F1の分離比から、腹部のねじれの左右非対称性は遺伝形質であるとの示唆が得られた。これらの結果は、エビ類の左右性が魚類の左右性と同様の性質をもち、エビ食魚・エビ双方の個体群動態に影響を及ぼすことを意味している。