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一般講演 P3-016

サンゴ幼生加入の空間的、時間的変異

*中村雅子(琉大・理工),酒井一彦(琉大・熱生研)

サンゴ群集の主要な構成者であるイシサンゴ目の造礁サンゴでは、種によって繁殖様式が異なり、その違いがサンゴ幼生分散の空間的、時間的変異をもたらすと考えられてきた。本研究ではその変異形成要因として、繁殖様式に卵の浮力の差異を加え、「(1)放卵放精でかつ浮力が大きい卵を放出するサンゴの幼生は親から遠くに分散し(self-seedingしない)、幼生の分散過程は表層流の影響を受ける、(2)放卵放精でかつ浮力の小さい卵を放出、または幼生保育で放出直後に定着可能な幼生を放出するサンゴの幼生は、親の近くに加入する(self-seedingする)」という仮説を、西表島周辺海域のサンゴ礁における野外調査で検証した。2005年と06年に西表島の11地点において、放卵放精でかつ浮力が大きい卵を放出するミドリイシ科およびハマサンゴ科と、放卵放精で浮力が小さい卵または体内保育した幼生を放出するハナヤサイサンゴ科の、幼生加入量および親サンゴの被度を比較した。その結果、ミドリイシ科の幼生加入量は親サンゴ被度とは相関が見られず、また空間パターンの年変動は、風向から予測される表層流の動きと連動していた。一方、ハナヤサイサンゴ科とハマサンゴ科の幼生加入量は、それぞれの親サンゴ被度と正の相関を示し、年変動は小さかった。これらの結果は、地点の空間的スケールではミドリイシ科はself-seedingしておらず、ハナヤサイサンゴ科とハマサンゴ科はself-seedingしていること、ミドリイシ科幼生の分散は表層流の影響を受けることを示唆し、仮説を部分的に支持した。浮力の大きい卵を放出するハマサンゴ科が仮説に当てはまらなかったのは、ハマサンゴ科では発生速度がミドリイシ科の2倍程度速いことによるのかもしれない。

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