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一般講演 P3-019

安定同位体を用いた林床無脊椎動物群集の食物網解明

*奥崎穣,陀安一郎,奥田昇,曽田貞滋

林床には様々な食性を持つ多様な生物が生息しており、彼らの食物網は複雑な構造をしていると思われる。安定同位体分析は微量で測定可能なうえに、生物組織内の同位体比は栄養段階の上昇に伴い増加する性質を持つため、体サイズの小さい動物群集の食物網解明に適した手法である。林床には低木や種子などの植物と、リターや腐植土などのデトリタスが存在する。これらの有機物を起点とする生食連鎖と腐食連鎖は、起点の同位体比の違いにより全体的にも異なると考えられる。また地表面には植物と分解途中のデトリタスが存在し、土壌中には分解が進んだデトリタスが堆積している。そのため地表動物の食物網は生食連鎖と腐食連鎖で、土壌動物の食物網は分解の進んだ腐食連鎖で構成されており、地面を境界とした2つの動物相の同位体比が異なる可能性がある。本研究では、この仮説のもとに地表動物と土壌動物の同位体比を比較し、それぞれのエサ資源を特定することにより林床食物網の解明を試みた。その結果、林床無脊椎動物群集には生産者(植物とデトリタス)、第一次消費者(植食者とデトリタス食者)、第二次消費者(捕食者と雑食者)の3つの栄養段階が存在した。栄養段階の上昇に伴う同位体比の増加量は地表動物と土壌動物でほぼ同じで、生産者から第一次消費者へはδ13Cが+3.9‰、δ15Nが+1.9‰、第一次消費者から第二次消費者へはδ13Cが+0.2‰、δ15Nが+3.5‰だった。生産者は葉、リター、腐植土の順に同位体比が高くなっており、腐植土は葉よりもδ13Cが2.8‰、δ15Nが1.9‰高かった。また消費者の各栄養段階でも土壌動物は地表動物よりもδ15Nが約1.4‰高かった。したがって地表動物と土壌動物はそれぞれ地表面と土壌中のエサ資源を利用しており、2つの動物相間の消費者-資源相互作用は弱いと思われる。

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