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一般講演 P3-023

ナラ類のタンニン濃度とタマバチ類の群集属性の関係

*伊藤正仁 (森林総研北海道・学振特別研究員), 井貝紀幸 (名古屋大院・生命農)

植物の交雑帯は“生物多様性の中心”と考えられており,そこでの生物群集に対する植物の種間交雑の影響を把握することは重要である。植食者に対する親種・雑種間の化学的防御レベルの変異は,その要因の一つとなりうる。一方,一部のゴール形成昆虫では,防御物質であるタンニンを多く含有する植物を選好することが報告されている。そこで,北海道各地のミズナラ・カシワ交雑帯と,ゴール形成タマバチ類を対象とし,(i) 親種・雑種におけるタンニン濃度を定量化して,(ii) これとタマバチ類の種数,種構成および密度との関係を検討した。

葉中のタンニン濃度は地域間,樹木個体間で異なっていたが,樹種カテゴリ(ミズナラ,カシワ,推定雑種)間の差は有意ではなかった。このことから,ミズナラとカシワの種間交雑は,タンニンによる化学的防御レベルに関与していないものと考えられた。

タマバチ類の種数,種構成ともに,同一地域における樹種カテゴリ間の違いは明確ではなかった。タンニン濃度とタマバチの種数の関係についてみると,地域レベル,樹木個体レベルいずれにおいても両者間に相関は認められなかった。一方,タマバチ類の種構成の類似度とタンニン濃度の間には,地域レベルでは明瞭な関係は認められなかったものの,樹木個体レベルでは,一部の地域において,両者間に相関が認められた。また,各地域における優占種の密度とタンニン濃度との間には,明瞭な関係はみられなかった。

以上のような,種間交雑−タンニン−タマバチ群集間の関係の弱さは,タマバチ類の群集構造に対してより大きく影響する,他の因子の存在を示唆している。

日本生態学会