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一般講演 P3-024

交雑は分布の拡大に一役買っている!?〜アイナメ属3種とその雑種の卵発生における水温耐性の比較〜

*木村 幹子(北大院・環境科学), 宗原 弘幸(北大・FSC)

浸透性交雑は集団に急速な遺伝的変異をもたらすため、その進化的意義は大きい。集団遺伝学の分野では、遺伝子浸透が選択的に生じた場合、浸透を受けた集団の地理的分布は影響を受けるとする仮説が提唱されている。とりわけmtDNAは代謝系に関する遺伝子をコードしており、mtDNAの浸透が温度環境への適応に関係する可能性が示唆されている。

亜寒帯性のスジアイナメと温帯性のクジメおよびアイナメは道南海域に交雑帯を形成している。亜寒帯性種であるスジアイナメはより低水温に適応している可能性があるが、3種の水温耐性に関する知見はない。また交雑帯ではスジアイナメの雌と他の2種の雄との交雑が生じており、どちらも繁殖力のある雑種を形成する。浸透性交雑によりアイナメやクジメの集団にスジアイナメのもつ低水温耐性がもたらされる可能性はあるのだろうか。

本研究では卵発生時の水温耐性に注目し、人工受精により、純粋種3種と、スジアイナメ×アイナメの雑種卵にアイナメの精子、およびスジアイナメ×クジメの雑種卵にクジメの精子を受精させた戻し交配雑種2種の受精卵を得て、卵が正常に発生できる水温の範囲を調べた。

その結果、スジアイナメ卵の発生可能水温は7-21℃だったのに対し、クジメやアイナメ卵は9-21℃では正常に発生したが7℃では全く卵割が起こらず、低水温に対する耐性は亜寒帯性種と温帯性種では異なっていた。またスジアイナメ×アイナメの卵は7℃で正常に発生し、雑種は母系のスジアイナメと同じ水温耐性を持つことが明らかになった。このことは、スジアイナメのmtDNAを持つ雑種個体が温帯性種よりも低温環境下で有利な可能性を示唆する。交雑帯の北方縁辺部での亜寒帯性種から温帯性種への遺伝子浸透は、温帯性種の分布拡大に貢献しているかもしれない。

日本生態学会