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一般講演 P3-025

里山林と都市緑地におけるチョウ類群集構造の比較

*東條達哉,桜谷保之(近畿大・農)

近年、チョウ類群集を用いて環境を評価する試みがさまざまな環境で行われるようになった。里山林を含む造成地である近畿大学奈良キャンパスは、二次林および造成によってできた草地、調整池、庭園など環境は比較的多様である。一方、大阪市内のいくつかの都市緑地も植栽によるクヌギ、コナラをはじめとする樹林や、草地、池、庭園など多様な環境を含んでいる。本研究では、互いに似た環境、植生を含む近畿大学奈良キャンパスと大阪市内の都市緑地においてチョウ類を調査し、群集構造の比較を行った。調査は近畿大学奈良キャンパスの3箇所、都市緑地である大阪南港野鳥園の1箇所、舞洲緑地の2箇所、鶴見緑地の2箇所、合計8箇所でそれぞれ2006年4月〜11月に月数回、各20分間の定点調査を行った。その結果、近畿大学奈良キャンパスでは35種、南港野鳥園では16種、舞洲緑地では13種、鶴見緑地では23種のチョウ類が記録された。チョウ類群集を用いた環境評価指数ERは、キャンパスは二次段階(薪炭林など)の要素が最も高くなり、都市緑地では三次段階(耕作地など)の要素が最も高くなった。また、都市段階(公園緑地など)の要素は都市緑地の方が高い値を示した。群集構造の重複度Cπはキャンパスと都市緑地との間では低い値を示し、群集構造は異なっていた。一方、都市緑地内や緑地間では高い値を示す傾向にあったが、里山林であるキャンパス内では低い値を示した。このことから、里山林のチョウ類群集は比較的近い距離であってもかなり異なっており、モザイク状の複雑な群集構造であることが示唆された。また、里山環境やビオトープ化をめざした都市緑地も近畿大学奈良キャンパスのような里山林のチョウ類群集構造にはまだ達していないと思われ、今後の時間経過による生物多様性の変化と管理状況に注目する必要がある。

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