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一般講演 P3-031
生物の分布と標高の関係には、いくつかのパターンが見つかっている。その中の一つに「標高が高くなるほど,種ごとの垂直分布範囲は広くなる」というラポポート則(Stevens 1992)がある。これは、高地は気候変動が激しく、そこに生息する種は環境変化に対して耐性を持つため、より広い分布範囲を持つという説である。これと関連して「標高が高くなるほど,種多様性は低くなる」というパターンも知られている。これを説明する仮説としてラポポートのレスキュー仮説がある。環境変化に対して耐性を持つ高地の種は、低地への移住と分化によって低地の多様性を膨らませるが、低地の種は高地の気候変動に耐えられず絶滅が起こりやすい。その結果、種多様性は標高とともに低くなるという説である。しかし過去の研究では、種多様性のピークが中間的な高度に現れるというパターンが多く報告されている。
本研究では、定住性で分布範囲が特定しやすい土壌生息性のアリ類を対象に、乗鞍岳(標高700〜2400m)の連続的な原生林で垂直分布調査を行った。標高ごとに種数・属数・個体数を調査し、垂直分布パターンがラポポート則に沿ったものであるかを検証した。
調査の結果、18属、33種のアリが確認された。まず、種ごとに棲息する標高を仮定し、垂直分布範囲との関係を見た。その結果、棲息する標高と垂直分布範囲には有意な相関は認められず、ラポポート則は支持されなかった。むしろ中間地点に棲息する種ほど分布範囲が広いという、これまでの報告に無い新しい傾向が見られた。
次に、標高ごとの種多様性パターンを見たところ、種数は標高に伴って有意に減少した。これまで報告例の多かった、中間的な高度での種数のピークは今回観察されなかった。
以上の結果について、植生帯の垂直分布および各アリ種のハビタット選好性という観点から考察する。