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一般講演 P3-041
近年、日本各地でブナ科樹木の集団枯死(ナラ枯れ)被害が起こっており、京都大学芦生研究林でもミズナラの被害が著しい。ミズナラ集団枯死の影響としては森林の水源涵養機能の低下などが考えられるが、樹上の餌資源に依存している生物への影響も無視できない。ミズナラに上る姿が度々観察されるアリに焦点を当て、本研究の目的を、ミズナラに上るアリの種構成を調べることによって、ナラ枯れの影響を受けやすいアリの種を特定することとした。
調査は、京都大学芦生研究林で2006年8月下旬〜10月上旬に行った。50m×50mのプロット内において、ナラ枯れによって枯死したミズナラ(枯れミズナラ)、健全ミズナラ、調査林分の優占種であるブナ、スギからなる計57本を調査対象木とした。樹幹上を上り下りするアリの種、個体数、餌を運搬しているか否かを、対象木1本につきのべ50分間記録した。ミズナラを特異的に利用するアリは営巣場所とミズナラの近辺しか探索しないので、地上での分布に偏りが見られると考えられる。そこで、2006年10月にプロット内に5mおきにベイトトラップを設置し、目視で種を同定できたアリについてその地上での分布を調査した。
ミズナラの樹幹上で確認された7種のアリのうち、ムネアカオオアリのみが他の樹種と比較して健全ミズナラを有意に多く利用しており、枯れミズナラは全く利用していなかった。健全ミズナラにおいて餌を運搬しているムネアカオオアリの割合は、上りは3.2%だったのに対し、下りでは79.6%だった。ムネアカオオアリの地上での分布には偏りが見られ、ミズナラが周辺にある尾根に分布する傾向が見られた。以上より、ムネアカオオアリはミズナラの樹上資源を特異的に利用しており、ナラ枯れの影響を受けやすい種と考えられた。