| 要旨トップ | ESJ54 一般講演一覧 | | 日本生態学会全国大会 ESJ54 講演要旨 |
一般講演 P3-049
林冠は、森林生態系において物質生産や動植物の相互作用などの大きな役割を担い、生物多様性も非常に高い。温帯落葉広葉樹林における展葉・落葉の季節変動は、林冠を利用する昆虫の動態にも大きな影響を与えている。
本研究では、温帯落葉広葉樹林の林冠にアクセスできる高さ25mの森林観測タワーにライトトラップを設置し、林冠と林床の夜間飛翔性昆虫群集の季節変動を明らかにした。調査は、龍谷大学の所有する滋賀県大津市瀬田丘陵の里山林「龍谷の森」でおこなった。2004年6月から2005年12月にかけて毎月1回、国際標準の手法であるIBOY式のライトトラップを林冠と林床に設置した。
その結果、林冠では2559個体、林床では6445個体の計9004個体の昆虫を採集した。分類群別に見ると、林冠・林冠ともに双翅目・鱗翅目・鞘翅目の順に個体数が多かった。またそれぞれの分類群において、林冠よりも林床の個体数が多かった。次に個体数変動を見ると、2005年は年間を通じていずれの月も、林冠よりも林床の総個体数が多かった。同じIBOY調査をしている金沢大学の里山林「角間の森」での結果と比較したところ、鱗翅目の総個体数は、両調査地とも林冠よりも林床の方が多かった。熱帯雨林では、林床に比べて林冠の昆虫多様性が高いといわれているが、本研究の結果、温帯落葉広葉樹林では、夜間飛翔性昆虫群集の多様性は林床の方が高い傾向が見られた。
鱗翅目は科、属または種レベルまで同定したところ、林冠に出現した種の多くは、コウモリの超音波を探知できる聴覚器を持つと言われている分類群に属していた。本調査に平行して、バットディテクターを用いて、本調査地におけるコウモリの分布高度の定性的な調査をしたところ、林冠だけでコウモリが確認できた。